ラグビーは放送技術の発達で“映えるスポーツ”になった。アジアで初開催のラグビーワールドカップ日本大会では、世界200か国で40億人がテレビを視聴したという。1試合に投入されるテレビカメラは最大で30台を超える。2020年東京五輪を前に、日本の映像技術を世界にアピールできた。
 スポーツと映像といえば「Fencing Visualised(フェンシング・ビジュアライズド)」も初めて見た時は驚いた。最新技術を使った映像にCG(コンピューターグラフィックス)等を融合させている。ラグビーもフェンシングも一般的にはルールが難しい競技に一石を投じ、さらに“映える”という大きなオマケ付き。日本の技術は凄いじゃない!誇らしい。


 しかし、そんな技術とは真逆をいくような世界を見て、また私は日本人であるという誇らしさとアイデンティティを強く感じた。11月1日、「平成中村座 小倉城公演」が初日を迎え、一番太鼓が鳴り響いた。九州初の平成中村座の開幕を知らせるもので、小倉城天守閣再建60周年×博多座20周年の特別企画として実現した。
 小倉城のお膝元の勝山公園に立派な仮設劇場と二十軒長屋が出現。幕間に食べるお弁当を購入し客席に入れば、天井から下げられた大きな「中村座」と書かれた提灯。正面を向けば、定式幕。黒・柿・萌黄と並ぶ歌舞伎座のものとは異なり、白・柿・黒の江戸時代から引き継がれてきた中村座ならではの伝統の色の定式幕だ。この空間に入ってしまうと、江戸時代初期、出雲阿国からスタートし歌舞伎がニューウェーブカルチャーとして紆余曲折しながらも大衆の熱視線を浴びてきた、そんな賑わいの光景を自然に想像してしまう。

 
 この最先端の技術を誇る国、日本の現代にあって「色の白いは七難隠す」である。顔は真っ白に塗られ、正義の味方は怒りや熱血を表す赤の隈取。それが青や黒なら悪や妖気を表わす。吊るされていると見て取れる宙乗りや黒衣の動きは“無いもの”として見る。回ったり開いたり消えたり出てきたり、舞台の仕掛けにしっかり驚く。そして、見得を切られ大向こうの掛け声がドンピシャにハマったのなら、誰もが大拍手。時事ネタのアドリブや公演地ならではのちょっとした遊び心に手を叩いて笑う。小倉城公演でも北九州弁を話すシーンがあった。
 なんだろう、このお約束の心地よさ。説明がなくてもなんとなく理解できるのは、日本人だからなのか。


 昼の部は「神霊矢口渡」「お祭り」「恋飛脚大和往来」。夜の部は「小笠原騒動」が上演された。歌舞伎は何度も見ているが平成中村座は初めてだった。松席は16,000円。役者やその伝統や小屋を作ってしまう規模への対価だと最初は思うところもあった。 だけどそれは的外れな考えで、今目の前で起こっているエンターテイメントに払う対価として全く高額だとは思わなかった。その美意識はCGで実現されるのものではなく、人の手と知恵で魅せられる事の贅沢を存分に味わうことができた。こんなの見せられたら、この先簡単には感動できなくなるんじゃないかと心配になる程、格別な、極上のエンターテイメント。デジタルを使わなくても、私の目には、映えて、映えて、映えまくっていた。

 
 平成中村座は、十八世 中村勘三郎さんの思いで実現した特設劇場公演だ。
 勘九郎さんによると、父に見守ってほしいと十八世の「目」を劇場に18ヶ所イラストされている。歌舞伎を見たことがない人にもとにかく面白い芝居を見せるという、十八世の気持ちが継承されている。
 上演中、勘九郎さんの姿に、十八世 勘三郎さんがのり移った様に感じた瞬間があった。勘九郎さんの男泣きの名演は、歌舞伎ではじめて私に涙させた瞬間にもなった。



【鶴田弥生プロフィール】

北九州市を拠点に活動する、ラジオパーソナリティ、ナレーター、ライター、MBAホルダーで会社代表。主に北九州市に関わる取材を通じた情報発信をしながら、PR事業、交流事業、人材教育、様々なブランディングに関わる。
趣味関心特技:アート・テニス・旅・食・音楽・芝居・歴史・サブカル・オカルト・マンタロウ(到津の森公園にいるオスのマンドリル)・自然の中から規則性をみつける事